
インタビューを通じて分かったのは、米国の大手金融機関がサステナビリティーやESGを金融業の本流に位置づける戦略性だ。それは「慈善ではなくビジネス」にほかならない。
米国の金融機関がESG重視に傾くようになった1つの節目は、2008年のリーマン・ショックだ。投資銀行が常識外れの複雑な取引を使って利益を追求する実態が明らかになり、ウォールストリート(金融界)とメインストリート(一般社会)の断絶も浮かび上がった。
公的資金による救済が相次いだこともあり、金融融機関として自らの社会的な存在意義を考え直し、一般に示す必要に迫られた。
資本規制が強化されたため自己資金を使った短期の市場取引では利益を上げにくくなった。社会との長期的なかかわりの中で金融業を再定義する試みこそが、サステナブル・ファイナンスでありESG投資だ。
金融危機に際して日本の銀行や証券会社は、米欧勢よりも相対的に傷が浅かった。その分、金融業が社会の強い批判にさらされることも少なかったため、ビジネスを見つめ直す切迫感に欠けた面は否めない。
最近になっておっとり刀でサステナビリティー関連の業務を立ち上げたり、ESG運用をうたう投資信託を販売したりする動きが目立つが、どこかぎこちない印象を抱くのは筆者だけではなかろう。
米SASBの国際展開や米欧にまたがるPCAFの基準づくりなど、世界の動きは急だ。日本勢がサステナビリティーやESGを市場の流行やテーマと考えているとすれば、金融力の格差はますます開く。
-日経新聞より-